車両総説

総論

西急の車両は、戦前は川崎造船所(現川崎車両)、汽車製造、田中車輌(現近畿車輛)、日本車輌製造の4社で製造されていた。戦後に子会社として大同車輌製造を設立して以降は、川崎車両と大同車輌製造の2社での製造となっている。

旅客車は特急車と一般車に区分され、いずれも20m級ボギー式である。特急車は、製造初年1972年の8000系から片側2扉片開きとなった。一般車は、1962年に製造された2000系(初代)から片側4扉両開きを標準とし、座席は運転台直後を除く車端部を固定クロスシート、扉間をロングシートとする座席配置で統一されている。

構体は、軽量アルミ合金製および軽量ステンレス製への移行が進められており、用途が特殊な6400系を除き2025年までには移行が完了する予定である。

電動車と付随車の比率は、7000系まではMT比2:1で組成されていた。これは、本線八日市~石榑間における勾配区間や、大阪メトロ堺筋線および名古屋市営地下鉄桜通線での走行性能確保が主な目的である。1992年に製造された6000系ではMT比1:1の8両編成で登場したが、地下線内での走行性能向上と冗長性確保の観点から、1996年の6300系製造時に中間電動車が製造され5M3Tとなった。2001年製造の1000系(2代)では制御装置が変更され、1つの回路で2基の主電動機を制御する(2M1C)ユニットを装置内に2群収めるという2M1C2群となったことから冗長性が確保され、再びMT比1:1となった。特急車10000系や2000系(2代)のほか、最新の3000系(2代)もMT比1:1で組成されている。

車体更新工事は、全般検査3回目となる時期を目途に施工され、車体の修繕をはじめ、内装や電装品の更新工事が施工される。

各論

制御方式

抵抗制御車は、全車両が回生制動の使用できる界磁添加励磁制御に改造済みである。近年、主電動機をはじめとする電装品の補修部品枯渇により、軽量アルミ合金製車両はVVVFインバータ制御化改造工事が施工中であり、普通鋼製車両は一部の車両を除き淘汰が完了した。

VVVFインバータ制御は、7000系先行量産車による長期実用試験を経て、桜通線直通対応車の7000系から本格的にGTOサイリスタ素子によるVVVFインバータ制御が採用されている。阪神淡路大震災による廃車の補充分として製造された6300系では、IGBT素子による3レベルVVVFインバータ制御を採用、その後、1000系(2代)および2000系(2代)では2レベルVVVFインバータ制御が採用された。2015年度には、2490系の制御装置をフルSiC-VVVFインバータ制御に変更して実用試験が実施された。その結果、2016年度から開始された6000系の制御装置更新工事では、フルSiC-VVVFインバータ制御装置が採用されている。

主電動機

製造初年1955年の1000系(初代)で採用されたMB-3020A直流直巻電動機は、数度の改良を重ねながら標準電動機として製造初年1986年の3000系まで約30年に渡り採用され続けた。その後、7000系でVVVFインバータ制御が採用されたことにより、三相かご形誘導電動機が導入された。永久磁石同期電動機(PMSM)は比較検討のために試験導入されたが、新3000系の発表資料では三相かご形誘導電動機が選定されており、採用には至らなかった。

駆動装置

駆動装置は1000系(初代)で採用されたWN継手が長らく標準となっている。TD継手については過去に2度現車試験が実施されており、特に1990年度のCFRP製TD継手の現車試験実施後、6000系への採用が検討されていたが、当時は仕様の統一を理由に採用されなかった経緯がある。また、2000系(2代)でも採用が見送られている。

制動装置

空気ブレーキは1000系(初代)でHSC-Dが採用されて以降、2400系まで標準だった。その後、7000系ではHRD-1R(回生制動併用全電気指令式電磁直通ブレーキ)が採用されたが、6000系以降はHRDA-1が採用されている。6400系にはブレーキ読替装置が装備され、HSC車との併結が可能となっている。

電気ブレーキは全系列が回生制動に対応しており、省エネルギー化に貢献している。また、VVVFインバータ制御車両のうち、近年ソフトウェアを交換した車両では純電気ブレーキが使用可能となっている。空気ブレーキおよび電気ブレーキを併用した電空協調制御・付随車遅れ込め制御・応荷重制御は全系列で導入されている。

台車

戦前は釣合梁(イコライザ)式台車であるボールドウィンAA形台車の設計を基本とした汽車改造型A型台車を主に使用していた。

戦後は台車の研究および開発が進み、数種類の台車が採用されている。

900系で軸箱守(軸ばね)式であるDT13改造台車が使用された。600系(2代)の電動車化改造工事の際に、長期実用試験で軸箱守(ウイングばね)式の汽車製造製KS-1型台車が装備された。1000系(初代)では円筒案内式(シンドラー式)の汽車製造製KS-16形台車が採用されている。2000系(初代)1次車では、軸梁式の川崎車輌製OK-24-N形台車および枕ばねを空気ばねとした円筒案内式(シンドラー式)の汽車製造製KS-67形台車の比較試験が実施された。試験の結果、KS-67形台車が採用され、改良を重ねながら3000系まで標準の台車となった。7000系先行量産車からは軸梁式ボルスタ付き台車が標準となっている。

ボルスタレス台車は長期実用試験が実施されたものの、本線の山岳路線区間や千里線の急カーブ区間では空気バネの水平方向変位が許容の±100mmを超えてしまうこと、また、当該区間ごとに台車を区分して運行させることは、車両運用および検査体制の煩雑化を招くといった総合的な見地から、採用が見送られている。

補助電源装置

現在は電動発電機(MG)は使用しておらず、旅客車全系列が静止型インバータ(SIV)を装備している。スイッチング素子の進化によりGTO式からIGBT式に変化している。かつては編成内に2台以上装備することで冗長性を確保していたが、現在は回路を二重化した待機二重系インバータの装備により冗長性を確保している。

電動空気圧縮機

長らくレシプロ式が主流だったが、6300系で初めてスクリュー式空気圧縮機が装備され、低騒音および低振動化に貢献した。また、従来は1つの機器箱に大型の空気圧縮機を1台設置する構成だったが、近年は1つの機器箱に小型の空気圧縮機を複数台設置し、多重化することで冗長性と必要吐出量を確保している。

集電装置

3000系までは菱形のPT42形が標準とされたが、1000系(2代)でシングルアーム形のPT71形が採用され、以降の系列で標準となった。また、既存の車両のうち経年の浅い車両ではシングルアーム式への置き換えが進められている。

電動車1両に対し集電装置を必ず1基設置し、編成内に母線を引き通す設計であることから、従来より離線対策は行われている。集電装置を2基装備する車両は2両固定編成のみである。

冷房装置

500系で分散式冷房装置のAU12形同等品が装備されたのが最初であり、続いて製造初年1971年の急行車8000系で分散式冷房装置のAU13形同等品が装備された。一般車では1974年の2400系で集約分散式冷房装置のCU-18A形(8,500kcal/h×5)が装備されたのが最初である。

新製車両は集約分散式、冷房化改造車両はグローブ型通風器を分散式冷房装置に置き換えることで対応している。なお、集中式冷房装置は長期実用試験のみ実施された。

正面形状

特急車で流線形を採用した以外は、中央貫通路を設けたスタイルで統一されており、戦後登場したいわゆる湘南形については1両も製造実績が無い。

前部標識灯は1000系(初代)までは正面貫通路の上部に設置し、それ以降は正面窓下に設置されるようになり、後部標識灯も前部標識灯の外側に設置されるようになった。通過標識灯も伝統的に正面窓上の外側に設置されている。

車両正面の方向幕は、新京阪時代に運転士側に種別板を掲示する事が多かったこともあり、運転士側が種別幕、助士側が行先表示幕となっている。なお、方向幕故障時に対応するため、種別板と方向板(手書きで対応)が装備品として積み込まれている。

運転台

運転台は、操作性の統一を目的に新京阪鉄道時代から一貫して縦軸ツーハンドルだったが、7000系先行量産車では横軸ツーハンドルとなり、以降の標準となった。

内装

2000系(初代)で、生成(きなり)色をベースに腰板部に茶色の化粧板、ベージュ色のロールカーテンと床、座席には臙脂色のモケットを採用して以降、一般車については一貫してこの意匠である。

特急車では新京阪200形の内装をベースとし、一般車とは色調を変えた化粧板、座席はリーフグリーンのモケット、床は市松模様を施した意匠となっている。

外装

戦前の車両

マルーン:5R 2.5/6

戦後から1000系(初代)まで

濃紺:5PB 1.5/2

黄かん色:4YR 5.5/11

2000系(初代)以降

ミッドナイトブルー:5PB 1.5/2

白:N9.5

6300系および6400系塗色パターン

黄かん色:4YR .5/11

マルーン:5R 2.5/6

銀色

白:N9.5

黒:N1.5

内装色

臙脂色:4R 4/11

クリームイエロー:5Y 8.5/3.5

銀色

白:N9.5

外装については、西急として発足後はマルーン一色であった。

戦後は濃紺に黄かん色の塗装を経て、2000系(初代)以降はコーポレートカラーであるミッドナイトブルーと白色が採用されている。特急車は、500系が臙脂色をベースに側窓周りにクリームイエロー、側窓の上下にグレーと白色の帯という外装である。

系列および形式

単一車両の形式称号は「形(がた)」とし、「モハ」「クハ」「サハ」といった車種記号は使われていない。そして、特定の形式と編成を組成する車両群を「系(けい)」でまとめ、系列と呼称されている。現在は1000単位で系列が区分されている。

付番法則は、新造時における編成両数によって各系列ごとに異なっていたが、1000系(2代)以降は8両固定編成を想定して付番されるように統一されている。

名古屋方制御車に系列内で一番若い番号(基準番号と呼称される)が付番され、神戸方制御車は基準番号に100を加えた番号が付番される。主制御器および主抵抗器といった、主電動機の制御に直接関係した機器を搭載した電動車(主電動車と呼称される)は基準番号に200を加えた番号が付番される。電源装置や空気圧縮機といった補機類を搭載した電動車(補助電動車と呼称される)は、主電動車の車番に100を加えた番号が付番される。簡易運転台付きの電動車および付随車は、基準番号に700を加えた番号が付番される。付随車が系列内に存在する場合は、901から付番される法則となっているが、これは2000系(初代)以降法則に変化はない。

列車種別

西急における列車種別は以下の通りである。

  • 本線:特急・快速急行・急行・準急・普通
  • 上記以外の路線:普通のみ

このうち、快速急行については三宮~草津間のみの設定である。

列車種別の表示方法

列車種別は種別幕および種別板のほかに、先頭車の通過標識灯で識別できる。点灯パターンは以下の通りである。

  • 特急:両側を点灯。正面上部の前部標識灯を点灯。
  • 快速急行:正面から見て右側を点灯。正面上部の前部標識灯を点灯(装備系列のみ)。
  • 急行:正面から見て左側を点灯。正面上部の前部標識灯を点灯(装備系列のみ)。快速急行設定前は両側の通過標識灯を点灯させていた。
  • 準急:正面から見て左側を点灯
  • 普通:無灯