なりたち(戦後)その6

新たな時代へ向かって

21世紀を迎え、インターネットの急速な普及に起因する様々な旅客サービスの登場や、「交通バリアフリー法」の施行による駅設備の改善など、これまでとは違う旅客サービスの提供が求められるようになった。鉄道事業では、旅客需要が激増した1960年代に製造された鉄道車両を置き換えるための新型車両が相次いで登場した。景気低迷期でもあり事業拡大のための大規模な開発事業はなく、既存設備の改修になどにより、事業基盤の強化に努めた時期である。

バリアフリーへの対応

2000年11月15日に施行された通称「交通バリアフリー法」に基づき、高齢者や身体障害者等への利便性および安全性の向上の促進が図られることとなった。

駅設備においては、駅構内にエレベータ・エスカレータ・スロープなどの設置やプラットホームの嵩上げといった段差解消の促進のほか、主に階段の手すりの増設や改造が行われている。また、車椅子およびオストメイト対応トイレの設置、運賃表や案内板への点字表示および音声案内の設置、プラットホームおよび通路などへの点字ブロックの整備など、バリアフリー対応工事は多岐にわたった。

鉄道車両においては、トイレ設置車両への車椅子対応トイレへの改造工事が順次実施されることとなった。また、経年の浅い車両から順に、車内に車椅子スペース・案内表示装置の設置・手すりの増設などの改造工事が実施されている。

これらの改修工事は、当初高齢者や身体障害者等を対象とするものだったが、後に「すべてのひとにやさしい鉄道」を目指してバリアフリー化からユニバーサルデザイン化へと変化していった。その始まりとして、2005年4月頃に「路線記号+数字」による初代駅ナンバリングが導入されている。

新型車両の模索

車両の動向については、1962年に登場した2000系列が車齢40年を迎えることから置き換えを考慮する時期に入っており、新たな標準車両の模索が始められた。置き換え計画については、本系列のみの話にとどめず、旅客需要が増大した1960年代から1980年代前半に製造された鉄道車両が大多数を占める現状を踏まえて、長期間かつ年間製造両数の均一化を織り込んだ、中長期の生産および改造計画が立案された。

少し前の1996年に、阪神淡路大震災による廃車分の増備として営業運転を開始した6300系は、少数の増備ながら相互直通運転を実施している全ての乗り入れ先路線に対応した初の系列であり、今後の新型車両製造におけるテストヘッドの役割も担っていた。また、1998年には製造された7400系では車端部と扉間中央部をクロスシートとする座席配置となり、従来の車両との比較検討が行われた。

これらの車両での検証を踏まえ、2001年に新型標準車両として1000系(2代)が営業運転を開始し、高経年車両の置き換えが開始されている。

ICカードの導入

2001年5月15日、JR西日本が定期券およびストアードフェアシステムで使用している磁気カードの非接触タイプICカード(以下ICOCA)化に向け検討することを発表、同年7月4日にはスルッとKANSAI協議会が2003年度以降の非接触タイプICカード(以下PiTaPa)導入を発表した。JR西日本の発表では、PiTaPaとの相互利用に向けた協議を進めていること、ICカードの規格も共通していることから、西急では相互利用開始の時点での同時導入を決定した。

早期の導入が見送られた主な理由として、

  1. 自動改札機等の機器更新の間隔から尚早であること
  2. 路線が中京圏にまで及ぶことについて協議が必要となったこと
  3. 当時大津駅以東で無人駅が存在しており、ICカード対応エリア外で乗降車した場合の手続きにより遅延が発生する可能性を考慮し、全駅の駅設備を整備する必要があったこと

等があげられている。しかし、バリアフリーへの即時対応などの観点から、西急では再び全駅を有人駅とする方針となり、駅務におけるICカードの取り扱いに関する懸念は解消された。導入に向けた各種整備が進められ、2006年2月1日に全線でICOCAとPiTaPaの導入を開始、同時にPiTaPa定期券のサービスも開始された。

2009年11月にスルッとKANSAI協議会とJR西日本で「ICカード乗車券を活用した連携サービスについて」合意されると、「多様化の実現」を名目にかなり早期の段階からICOCAの販売開始に向け動き出し、2012年1月からICOCA(定期券を含む)の販売が開始されている。

新時代のサービス提供

2010年代は、情報通信技術などの進化とともに、駅設備や鉄道車両にも時代に応じたサービスが提供されることとなった。

2010年初めに梅田駅において、大画面化と低価格化が進んだ液晶ディスプレイを使用した案内表示装置およびデジタルサイネージが導入されている。その後、案内表示装置については2015年までに全駅に設置され、デジタルサイネージについては乗降客数の多い駅に設置されている。特に液晶ディスプレイを使用した案内表示装置については、LED式のものと違い汎用品が使用できることが一番のメリットであり、そのほかに情報提供の即時性や細やかさに優れている点から、後述する通信設備の増強とともに急速に交換が進んだ。

同じく2010年初めから、公衆無線LANサービスの要求の高りや、徐々に普及しはじめたスマートフォンへの対応も含めた通信設備の増強として、全線でのWiMAX基地局整備が実施されることとなった。これにより、駅での高速モバイル通信・デジタルサイネージへの配信・駅構内の業務データ通信・沿線での工事作業の進捗や異常発生時などの映像伝送などに活用されていく。列車内および駅構内では、無線LANのアクセスポイントも順次設置され、公衆無線LANによるインターネット接続サービスの利用が可能となった。

多言語対応に向けた動き

2013年4月1日、ビザ緩和などにより訪日観光客の増加が見込まれることから、案内表示類の見直しを目的としたユニバーサルデザイン推進計画を策定した。駅構内の多言語表示・駅での外国語放送の追加と自動放送化・外国語対応可能な案内所の設置・ウェブサイトの多言語対応化・公衆無線LANの再整備が行われている。特に外国人旅行客向けには企画乗車券の発売など、誘致に向けた様々な取り組みが実施されている。

2014年4月1日には、計画の一環として「駅ナンバリングとバス系統番号のシームレス化」が実施された。駅ナンバリングが従来の「路線記号+数字」から、大手私鉄数社と同形式の「英字2文字+数字」を基本とするナンバリングに再編された。並行して自社路線バスの系統番号も駅ナンバリングに合わせたものに変更されることとなり、バス停にもナンバリングが付与されている。

2016年2月1日から、スマートフォンやタブレット端末などの普及により、案内所に加え駅窓口でも多言語音声翻訳アプリによる外国語対応が開始されている。ほぼ同時期に、列車内でも外国語放送の追加および自動放送化に向けた改造工事が開始されている。2017年度には車掌携帯端末もスマートフォン型ハンディターミナルに変更され、同端末による自動放送の試験運用が先行して実施されている。2019年3月末頃に全編成の車内放送設備改造工事が完了、全ての列車の案内放送が多言語・自動放送化された。